当帰芍薬散の解釈
コロナ後遺症での嗅覚障害などの治療に当帰芍薬散などが使われています。
この治療の視点がどこにあるのか?が不明で、「当帰芍薬散を使うと治療効果が上がる」との根拠があるようですが…はっきり言って効かないと考えます。
1.当帰芍薬散の効能について
当帰芍薬散の薬草構成は、芍薬・茯苓・朮・沢瀉各4.0;当帰・川芎3.0となります。
これが何を意味しているのか?ということですが…まずは薬徴から当帰芍薬散を考えてみます。そのために気剤・血剤・水剤に分けて効能を知り、その薬草構成から考えられる処方の効能を考えます。
気剤:朮は下腹部の気の部位を指定、川芎は主に生殖器に関係する下腹部の気の部位を指定
血剤:芍薬は腸の血熱を取る役割、当帰は主に生殖器の関係する下腹部の虚血を治す役割
水剤:茯苓は水を外に出そうとする役割、沢瀉は動かない水を動かそうとする役割
この様な薬草構成から考えられることは、下腹部の冷えが長期化して冷たい水が溜まっているという状況を打開する処方であることが覗えます。芍薬が入るのは下腹部だけを温めるために起きる腸へ熱の伝搬を防ごうとしているということになります。
2.下腹部と頭部との関連性について
下腹部は頭部と強い連携をもっていることは事実です。それは女性の生理前では下腹部が張ることにより顔が浮腫んだりニキビが出やすくなることから容易に推察できます。
では頭部に影響を及ぼす場所が下腹部だけか?というと、それだけではありません。実際には季肋部の実質臓器群や胸腹バランスでも頭部に影響を及ぼします。このことは他で詳しく説明しますが、簡単に説明すると季肋部や骨盤部は頭部と同じエネルギー性格を持った部分だからです。また胸腹バランスは季肋部臓器のエネルギーを背景から決めることができる要素になり頭部に影響を及ぼす臓器バランスです。
この様なことが処方を通して感じられないこと。また推測できないために診断できないということは…漢方薬を使っていても漢方医学が重要視する「身体は一つで機能している」という根本の理論的背景を理解しないで漢方治療をしているということに他なりません。
3.身体を診ていない漢方診療が多すぎる
現実的には困ったことなのですが、コロナ後遺症の殆どは少陽病に属します。何故?このような身体を診たときに少陽病の臓器の充血の場所が診断出来ないのに加えて…「単なるネットの情報で嗅覚障害や味覚障害の漢方治療において少陰病に属する当帰芍薬散などの漢方処方が行えるのか?」が理解できないのが私のコロナ後遺症の臨床を通しての実感です。
ネットの漢方情報を拝見するとき…「この考え方だ!」と驚嘆することは殆どありません。疲れている慢性疲労症候群だから補剤を何の根拠もなく解説している記事。下のまとめにも書いた通り、嗅覚障害や味覚障害に当帰芍薬散を使って治らないと来院する患者さん。コロナ後遺症の味覚障害や嗅覚障害に効くらしいと書いてあったから…というのが前提で診察以前に処方を決めている姿です。これでは漢方薬が可哀想です。
4.まとめ
これは、まず漢方医学の原典の「傷寒論」が理解できていないということが根底にある様に感じられます。「嗅覚障害に当帰芍薬散」などとネットに書いてあったりしますが…当帰芍薬散単体でコロナ後遺症の処方はあり得ないとうことを実際の診療や治療を通して感じます。端的には「傷寒論の病期の把握もなくして、何故? 少陽病期に少陰病の漢方薬単体を使うのか?」と思わざるを得ません。残念ながらこのような漢方診察判断の風潮は権威ある組織から地域臨床をしている開業医まで同じ様なのです。
今日(23年10月20日)は嗅覚障害と味覚障害のコロナ後遺症の患者さんが診察にいらっしゃいましたが、亜鉛やビタミンB12と当帰芍薬散という治療でした。これでは…治るものも治りません。味覚障害は治り易いですが、嗅覚障害は比較的長期治療が必要です。加えて患者さんの身体を診ると少陽病期の身体をしており当帰芍薬散単体では無理だと感じます。これが今の日本の漢方医学ならば、どうにかしないといけません。困ったことだと感じながら診察しています。
実は今日(24年6月15日)にも同じように嗅覚障害と味覚障害の患者さんが診察にいらっしゃいましたが、これが当帰芍薬散を処方されていて治らない、と。診察すれば…当然のことで少陽病期の両脇の熱が強い状態で残念ながら当帰芍薬散の適応ではありません。確かに両脇の熱が強くなれば下腹部の力が相対的に落ちることは理解出来ますが、治療には…ほど遠い処方である当帰芍薬散単体を投与されていることに困惑と残念な気持ちになります。私が感じていることは後世の人のために話し残しますが…今の漢方治療は「なんちゃって漢方治療」が多い様で悩みます。
この様な現状での漢方治療の状況や本当の漢方治療の視点などを分かりやすく説明していくことが私がしなくてはならない漢方治療であると感じています。今までの私の人生は漢方薬に助けられたことに対しての恩返しの気持ちが強く、権威や著名な医師に対しても「疑問があることは疑問がある!」と指摘することは大切だと思います。医師の個人名称は出しませんが…今までの日本が持っていた医療での素晴らしい所は漢方治療を通して現代医学に残したいことに他なりません。
2024/09/01更新
2024/07/02更新
2024/06/15更新
2023/10/20更新
2023/10/19