Menopause加味逍遥散の解析

1. 更年期障害の概略 2.更年期障害:骨盤の特異性
3.骨盤の特異性(一般向け) 4.骨盤の特異性(専門家向け)
5.更年期障害の症状と視点 6.当帰芍薬散の解析(更年期)
7.加味逍遙散の解析(更年期) 8.桂枝茯苓丸の解析
9.桃核承気湯の解析 10.通導散の解析
11.症状出現臓器と症状基盤臓器 12.リウマチと骨盤
13.当帰剤への視点 14.駆血剤への視点

加味逍遥散の解析

更年期障害に加味逍遥散を処方される方が多いのですが…自分には不可解な部分があります。
この処方を安易に投与すると言うことは、処方内容を考えてはいなくて症状のみに反応して処方している姿が目に浮かびます。漢方薬は薬草の構成により作用が異なります。この部分を顧みずに漢方薬の処方をしても多くの場合には有効性はありません。そんなことを含めて加味逍遥散の解析をしてみたいと思います。自分の私見ですが多くの更年期障害には加味逍遥散は不適当だと考えています。

1.加味逍遥散の処方構成

加味逍遙散の構成薬草は当帰・芍薬・柴胡・白朮(蒼朮)・茯苓各3.0;甘草・牡丹皮・梔子各2.0;薄荷・生姜各1.0の10種類の薬草になります。

次に、この処方の薬草を気血水の3つに属する薬草に分けます。

気:白朮(蒼朮)・薄荷
血:当帰・芍薬・柴胡・牡丹皮・梔子
水:茯苓・生姜
太極:甘草

以上の様に分けられます。

2.加味逍遥散の効能解析

加味逍遥散の効能を推測してみましょう。

この処方の特性は血に属する薬草が多いことです。
そのため血に属する薬草を血虚と血実に分けてみます。
血虚:当帰
血実:芍薬・柴胡・牡丹皮・梔子 になります。

当帰は左下腹部の血虚・芍薬は腸の血実・柴胡は肝臓の血実・牡丹皮は右下腹部の血実
そして梔子は心臓表面の血実の薬草に相当します。

次に水に属する薬草:茯苓を考えます。
茯苓は水を体外に出す作用があると思われ、当帰芍薬散を考えれば処方構成は当帰芍薬散:芍薬・茯苓・朮・沢瀉各4.0;当帰・川芎3.0の構成であることから考えれば、左下腹部を温め冷たい水を排出させる効果を期待して加えてあることを示唆できます。

最後に気に属する薬草:白朮と薄荷を考えます。
白朮は下腹部の気剤で当帰芍薬散に配合されていることからも分かります。薄荷は防風通聖散や荊芥連翹湯の処方構成として入っています。この処方の共通点は血熱を取る薬草が多く梔子が入っていることが共通点であり、心臓表面の気の流れを制御していると考えられます。

このことから推測される加味逍遥散の姿が浮かび上がります。
「生殖器を含む下腹部の虚脱(虚血)が主体で他の臓器は充血している」というような身体に効能を発する処方です。図にすると以下の様な形になります。

血に関係する薬草の芍薬・柴胡・牡丹皮・梔子の配置を考えれば上記の図の右の様な身体をしていると考えられ、右下腹部の血実と左下腹部の血虚が特徴的です。

3.加味逍遥散投与の難しさ
3a. 基本

もし加味逍遥散の様な身体をしていれば左下腹部の血虚があり、他の上方の部分が血実ですので逆上せてイライラする様な症状がでることは簡単に推測できます。それは効能書に書いてある通りです。

しかしながら、ここまで加味逍遥散の身体を薬草の構成から考えてみましたが、臨床をして実際にこの様な身体をみることは滅多にありません。更年期である閉経の5年前後にこのような身体になることは殆どありません。身体の疲れが加わっている状態であれば、この様な状態になることが推測できますが、一般的な更年期での身体は下腹部の張り(充血)に代表されるからです。下腹部の虚血は殆どないと思われます。

3b. 臨床での違和感

「更年期障害に属し精神的なイライラが多い」というだけで加味逍遥散を投与されている患者さんが多く、「漢方診療ではなく症状から漢方薬を決めているのか?」と疑わざるを得ない漢方処方投与が目立ちます。

まず驚くことは柴胡剤の適応ではないのに「加味逍遥散」が使われていることが多いことです。柴胡剤と黄連剤は全くの別物になります。この部分を間違えては効く漢方薬も効かないと残念な思いだけ残ることが多いです。黄連剤の適応に柴胡剤の加味逍遥散を使えば症状が悪化するのは明らかです。

加えて、この処方を受けている人で子宮内膜症やチョコレート嚢腫など下腹部の充血により発症すると考えられる病態を診ることが良くあります。当帰が入っており下腹部を補血する要素がある加味逍遥散の投与に関して「これでは…悪化するだけだ」と患者さんには言わないで悩む姿が自分の臨床医としての日常的な姿でもあります。このことから漢方医学というものがどの様な医学であるのか?ということを知って頂ければと思います。大切なことは処方構成生薬を見て「どの様な身体に有効なのか?」という一番大切な部分が欠落していていては論外の治療の様に感じます。

4. 臨床例

閉経後にホットフラッシュが強いと婦人科で「加味逍遥散」を処方されたが不安…と来院した患者さんの例になります。

この加味逍遥散は柴胡剤ですが、診察をすると「黄連剤の適応であり…加えて下腹部の張りが強いことから当帰剤は必要ない」と判断しました。このため「加味逍遥散は全くの間違い」と考えざるを得なく、黄連剤と実証の駆血剤の投与を行いました。当帰芍薬散を駆血剤としている解説も多くありますので説明しますが…当帰芍薬散は虚証の駆血剤であり実証の駆血剤である桂枝茯苓丸などの漢方薬との区別が必要になります。

この様に漢方薬の症状投与をしている医療関係者が多いと感じる漢方薬の症状投与の実例であり、これでは漢方薬の長所が生きてこない診療と思われ残念に思います。

5.まとめ

加味逍遥散の記事を書いていると今の殆どの漢方治療が症状対応漢方の様な変な民間医学と同じ様な有様であることを危惧しています。

この加味逍遥散の効能や現在での漢方処方に関して感じることは「薬徴(薬草の性格)を知らないで処方をしている医療関係者の姿」です。漢方医学は現代医学も支えうる力を持っているのですが、この様に勉強もせずに漢方薬を使っている姿を見ると情けない印象を持ちます。

因みに自分の漢方薬の選択は身体を拝見して、その身体に合うと思われる漢方薬を処方します。症状には捕らわれません。漢方薬には同じ様な症状が並ぶ処方が多く、症状だけで漢方薬を選んでも効果を期待することが難しいからです。そのため漢方処方の薬草の構成を見ることによって、「この漢方薬は…この様な身体に効く漢方処方だろう」と推測しながら診察をしています。

決して、自分だけが正しいという気持ちはありません。ただ…「傷寒論も薬徴も知らず、どうやって漢方治療をするのだろう?」という疑問があります。自分が他人に漢方処方をするに当たっての壁は高く厚いものでした。「この壁を乗り越えるには?」と何度も考えてきました。診療において漢方治療は一般治療よりも非常に難しい一面を持っている医学だと、この加味逍遥散の解析を通じて感じます。最終的には、この様な漢方医学の難解な部分の打開策を皆さんに提示していくことが自分の役目なのかも知れません。

2024/09/14更新
2024/07/07更新

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