マスメディアの方に
マスメディアの方からの「コロナ後遺症」の取材の依頼が増えている様ですので、コロナ感染後遺症の説明を追加します。申し訳ありませんが…取材には慣れていませんので殆どの取材にお断りしているのが現状です。マスメディアの記事を拝見すると「コロナ感染で命があるだけ良いだろう」とか「偽病ではないか?と言われる」などの見過ごすことが出来ない事案が並んでいます。これは現代医学がコロナ後遺症の原因を把握できていないことから来ており、実際にコロナ後遺症患者さんの身体を診ると明らかに病的であることが確認できます。
現代医学は風邪という病態に対して正確な定義を示していません。その病態により急性気管支炎・上気道炎・咽頭喉頭炎・咽頭扁桃炎などの風邪と思われる病名が並びます。しかしながら、その風邪の現象が「どの様な機序により発症し基本病態がどの様なものであるのか?」を定義していません。この部分は私がコラムで執筆した「葛根湯解析」により「風邪は皮膚と腸のアンバランス性を基盤にしている」ことへの結論を示すことができます。(付け加えるならば風邪にも他の種類があり「皮膚ー気管支のアンバランス」である麻黄湯や「胸部ー腹部のアンバランス」である香蘇散があります。インフルエンザでは麻黄湯系ですがコロナでは葛根湯系に属していると感じています。大きく分けて3種類です。)
風邪という現象は、身体に熱が入って行くのが一般的な病態になります。最初は皮膚と腸のアンバランスから生まれた熱が、実質臓器に熱が入り少陽病期となり、管腔臓器に熱が入り陽明病期になります。この病期の区別は今から2000年前に張仲景によって著作された「傷寒論」に書かれてありますが、風邪の熱が身体の内部に向かって入って行くのが一般的です。これが「風邪は万病の元」と言われる所以だと思われます。
普通の風邪でも風邪が治癒をした後に臓器に鬱血が残る場合も多く、微熱や倦怠感が続いたり、咳が続くことも多くあります。この病態と変わらないのがコロナ感染後の後遺症に他なりません。ただし一般の風邪と比較して臓器の鬱血の程度が強いことが多く、一般の風邪の遷延症状では1週間程度で治ることが多いのですが、コロナ後遺症の治療では2ヶ月以上の治療期間が必要となることが多いことを実際の臨床治療で確認しております。
マスメディアの記事では「コロナ後遺症の機序が不明」と書かれていますが、風邪の後に普通に認められる臓器の鬱血が残っている状況に過ぎません。この臓器の鬱血により後遺症の症状が発現しているだけです。個体差により症状が多彩になる側面がありますが、その基本原因の殆どが実質臓器である肝臓や脾臓の鬱血、また管腔臓器である腸の鬱血によるものです。この状態はどのコロナ後遺症の患者さんにも共通しています。
漢方医学的には他の病気治療においても、臓器の鬱血や虚血に注目しなくては漢方治療が出来ないことから「コロナ後遺症でも他の病気と同じ様に診察と加療をしていくだけ」と言うことになります。コロナ後遺症が特別な病態ではないという結論にもなります。
この様なコロナ後遺症の病態治療においてマスメディアで取り上げられている様な「怠さを取るために補中益気湯などの補剤を使うこと」は、まずありません。補剤は体力が落ちている怠さの改善であり「回転力が落ちた駒が長く回ることが出来ない時に駒の回転数を上げる役目の漢方薬投与」をしていることと同じです。一方、鬱熱が身体にこもって怠さを生んでいることは身体がバランスを崩している怠さですので「バランスを崩している駒が長く回ることが出来ない状態」を示すことになります。コロナ後遺症では後者が圧倒的に多く、この欝熱を基盤とするアンバランスから来ている怠さに対しては、当然ながら鬱熱を取る漢方処方を主体にすると症状が改善していくことが多いのが臨床をしていての感想です。補剤などを飲むと一時的に体力が戻った様に思える時期がありますが、その後に突然…病態が悪くなります。コロナ後遺症での補剤の使用は慎重にするべきだと考えています。
それでは「その臓器の鬱血をどの様に診断するのか?」ということになりますが…私の場合は特殊だと思います。臓器の鬱血は血液検査には現れません。このため検査重視の医師には見分けが付かないかも知れません。一方の私は、学生時代から病弱だったことから現代漢方の大家:大塚敬節先生の治療を受け、漢方専門の医院での外来研修、また整体や鍼灸師の先生から診断方法を学びました。今の自分の漢方治療を支えているのは鍼灸師の先生から教えて頂いた「気の流れの診察」の方法です。鍼は「気を流す治療」であり気の停滞部位に鍼を刺すと気の流れが再開します。この点に着目し身体の変化を観察すると、気の流れの停滞の部位に臓器の鬱血や虚血があることが分かります。この部分を目標にして漢方治療や一般治療をして行くことになります。初診では気の流れの停滞が強い状態でも治療により気の流れが良くなり、同時に臓器の鬱血や虚血も取れていきます。そして症状も取れていきます。
今のコロナ禍で私が分かっていることは随時、記事にして行くつもりです。1人でも多くの人を助けるのが医師の役目ですので当然のことであるとも考えます。マスメディアの方には、この基本的なコロナ後遺症の記事でも、分からない部分がありましたら、お答えしようと思います。しかしながら漢方薬の処方名をお教えすることはしないことにしております。それは日常の外来では患者さんより「この様な処方が効くと書いてあったから使って欲しい」と要望が出ることがあることが多いからです。症状が同じでも同じ処方が効くことはなく、個体差により処方が異なるのが漢方治療ですが、患者さんにその視点はありません。加えてコロナ後遺症と言っても使う漢方処方は様々です。このことから、処方名の記載は他の医師のご迷惑にもなり、敢えて記載できないことをご理解下さい。
以上の様に漢方的視点では、コロナ感染後遺症は特別な病態ではありません。また漢方治療で対応可能な病態でもあります。少しでも世の中に尽くすことができ、コロナ治療の最前線の医師達を陰ながら助けていく考えは変わっておりません。マスメディアの方にも「コロナ後遺症が怖い」という恐怖を持たせるのではなく光が見える記事を期待しています。加えて、皆さんの力によって新しい視点を持った強い医学が出来る様に願っています。
2021/06/23更新
2021/05/27
すぎ内科クリニック
院長:杉